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 人は自身の欲求が満たされれば快く感じる。道徳的な行動をとったときに感じる快さもある。後者の方が大きければ、自分の欲求を抑えて他者への共感や思いやりを発揮する。

 人類学者の長谷川真理子さんが、著書「生き物をめぐる4つの『なぜ』」で示す考え方である。他者理解の基盤は人が生物学的な進化の中で得た脳の機能だという。人の優しさや善意は生まれながらのものと解釈しても、大きく外れてはいまい。

 長谷川さんが会長を務める日本人間行動進化学会が先週出した声明が、注目を集めている。矛先を向けたのは自民党広報がインターネットに投稿した4こま漫画だ。ダーウィンの進化論を持ち出し、憲法改正の必要性を訴えている。

 漫画は「生き残ることができるのは最も強い者でも最も賢い者でもない。変化できる者だ」と説明する。ダーウィンはひと言もそんなことは言っていない、と学会は異を唱えている。

 生物の進化とは、何世代もかけて多様な種が生じる過程だ。ダーウィンは偶然に起きた変化の中から、環境に適さないものが淘汰(とうた)されていくという学説を立てた。なるほど、自ら変化できる者のみが生存できるという捉え方は飛躍しすぎだ。

 自民党は漫画を削除する気はないらしい。学説の誤用は恥ずかしいし、誤りを改めないのは道徳にもとる。よもや改憲が話題になることを喜んではいないだろうが。