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 原爆投下後の広島市で、市民に生活情報を触れ歩く人たちがいた。輪転機を壊された地元新聞社が送り出した「口伝隊」である。井上ひさしさんの朗読劇「少年口伝隊一九四五」はそんな史実に着想を得た。

 家族も家も失った少年3人は隊に加わり、焼け跡の街で「じいたん」と知り合う。そのせりふが胸に残る。「ふとか号令の方へ、よう考えもせずになびいてしまうくせが、人間にはあっとってじゃ(あるんだ)」。

 広島は75回目の原爆忌を迎えた。1発の爆弾が約14万人の命を奪った。ただし、これは1945年末までの推定で、その後に亡くなった人も多い。生き永らえても被ばくの後遺症に悩まされ続ける。

 先週、広島地裁が出した「黒い雨」訴訟判決は、国が線引きした援護対象区域の外にいた原告を被爆者と認めた。援護行政の転換を迫る画期的な判断といえる。一方で今なお被害の全容が総括されていない現実も物語る。

 朗読劇では、したたかに生き抜こうとする少年たちもやがて髪が抜け、足に紫色の斑点が現れる。放射線を浴びた市民に生涯つきまとう不安と恐怖がここにある。風化させてはなるまい。

 口づてで、文章で、映像で。今はさまざまな手法で体験や思いを記録したり、自由に発信できたりする。次世代に何をどう伝えるか。じっくりと考えを深める時間が、何者にもなびかぬ核廃絶を誓う足場を固める。