( 8/7 付 )

 原爆投下から3年後の広島を舞台にした戯曲「父と暮せば」はおかしみのある広島弁が趣深い。バラックに1人で住む年頃の娘と、原爆で亡くなったはずの父親が淡々と言葉を交わす。

 生き残った自分を責め、恋をして幸せになるのをためらう娘に、父親は「そよな病気は、はよう治さにゃいけんで」とたしなめる。自責の念という“病”を早く振り払いたい-。父親の幻に娘の秘めた思いを語らせているのだろう。

 没後10年を迎えた井上ひさしさんの作である。1994年の初演以来、国内外で演じられた。2004年にはえびの市出身の黒木和雄監督によって映画化もされた。

 6年前からは俳優の岡崎弥保(みほ)さんらが東京で朗読劇を続けている。今年は新型コロナの感染拡大を受け、原爆忌にインターネットによる無料配信に切り替えた。

 いったん公演を諦めた娘役の岡崎さんだが、コロナ禍でも高齢の被爆者がネットで体験を語り続けているのを知り、「私にもできることがあるはず」と一念発起したという。リモート公演で東京以外でも観劇できるようになった。昨日に続き、9日午後2時から配信される。

 むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく-。井上さんの創作の心得が随所に見られる作品からは、悲惨な情景が立ち上がってくる。伝え手のさまざまな工夫に手を伸ばし、触れてみたい。