( 8/8 付 )

 「懐メロ」と呼ばれる昭和の歌謡曲には、古里への思いを込めた歌が多い。高度経済成長期の1965年にヒットした北島三郎さんの「帰ろかな」は代表的な一曲だ。

 永六輔さんが手掛けた歌詞は「淋(さみ)しくて 言うんじゃないが」で始まり、サビでは「帰ろかな 帰るのよそうかな」と古里への複雑な心情がにじむ。地方から都会へ出た人たちの琴線に触れたに違いない。

 「帰省しようか、よそうか」。新型コロナウイルスの感染が拡大する中、思い悩む人は多いのではないか。「ステイホーム」と言ってくれれば諦めもつくが、「Go To トラベル」と背中を押されればブレーキは緩む。

 政府のメッセージもちぐはぐで混乱に拍車を掛ける。「対策が難しければ控えて」と分科会の専門家が呼び掛けているのに、当の大臣は「箸の上げ下げまで言うつもりはない」と距離を置く。迎え入れる側の知事たちの反応も分かれた。

 帰省とは、父母の安否を確認しに帰郷することと手元の辞書にある。元気な顔をひと目でも、と思うのが人情だが、どれだけ感染防止を心掛けても高齢の家族と会うリスクは怖い。帰省を見送る人も少なくないだろう。

 近所の目が気になってためらう人もいそうだ。要は家族で話し合って決めるしかない。一人一人に重い決断を強いる特別な夏である。せめて空港や駅に降り立つ人を温かな気持ちで迎えたい。