( 8/10 付 )

 大学の卒業論文は今も苦い思い出だ。4年生の夏になってもテーマを決められず、ついに担当教官に泣きついた。テーマをもらって、参考文献まで教えてもらった。

 材料はそろったものの肝心の主張がまとまらない。当時は手書きで時間に追われ、引用だらけの論文になった。先生に引っ張られないと動けない典型的な「グライダー型」学生である。

 先月96歳で亡くなった英文学者の外山滋比古さんは、著書「思考の整理学」で知識ばかり先行するグライダー型学生の多さを嘆いた。とはいえ、自分で考えるエンジンを持つ「飛行機型」を短絡的に勧めない。知識の吸収にたけたグライダー型も認めながら「エンジンをいかに搭載するか」とアドバイスする。

 体験を交えた軽快な文章は説得力にあふれる。考えがまとまらない時は「一晩置く」そうだ。あえて忘れる時間を作り、頭の中が真っさらになれば主観が抑えられ、いい発想が湧くのだという。

 1986年の文庫刊行から若者らに指南書として親しまれ、累計250万部を超すベストセラーだ。詰め込み教育を受けてきた学生たちが、その先の「羽ばたく力」を探しているからだろう。

 外山さんは最近も新聞を「毎日自宅に届くテキスト」と呼び、自らの活用法を紹介していた。業界に身を置く者としてうれしくもあり、終生とどまることのなかった探究心に背筋が伸びる思いだ。