( 8/12 付 )

 薩摩川内市の丸武産業は黒澤明監督の映画やNHK大河ドラマなどに登場する甲冑(かっちゅう)の製作で知られる。先月92歳で亡くなった田ノ上忍さんが20代で創業した。

 当初は竹製釣りざおのメーカーで、社名は丸竹産業だった。しかし、1970年代にグラスファイバー製の台頭で竹製の需要が低迷すると、古美術の趣味を生かした甲冑製作に転じる。

 精巧さにこだわりつつも軽量化や一部機械化による量産を図り、映画やテレビの撮影で多用されるようになる。今ではシェア8割超の日本一企業だ。地元観光に貢献しようと展示施設も造った。「竹」から「武」へ見事な転身だった。

 少々意外だが、同社の転業後も北薩では竹製釣りざおが盛んに作られた。国内では釣り堀用ぐらいだったが、米国では渓流釣りの愛好者らに人気があって、輸出していた。特に地元産ホテイ竹を使ったさおは、しなりの良さなどに定評があったという。

 だが、80年代半ばから円高が急激に進み、より安価な台湾産に押されて県産竹ざおは衰退していく。最盛期は各地に工場があり、1億5000万円を超す輸出額を誇ったと聞くと、何だか惜しい。

 地元の竹資源は今、豊富という水準を通り越して、放置竹林という厄介な課題に直面している。どうしたら有効に活用できるのか。新たな地場産業を創出した田ノ上さんのような、時代の変化に負けない発想が待たれる。