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 東京・市ケ谷にある日本棋院の「幽玄の間」は、囲碁のタイトル戦はじめ数々の名勝負の舞台になった。「深奥幽玄」の掛け軸がひときわ目を引く。

 囲碁愛好家として知られたノーベル賞作家の川端康成が、1971年の落成記念に揮毫(きごう)した。幽玄とは奥深く趣のあることを意味する。力強い墨跡は容易に計り知れない囲碁の魅力を表しているようだ。

 先日ここで第45期「碁聖戦」第3局の冒頭を見学した。平成四天王の羽根直樹碁聖と、挑戦者で令和三羽がらすの一力遼八段が正座して向き合った途端、碁に不案内な身にも空気がピンと張り詰めるのが分かった。

 世代間の対決は23歳の一力八段が3連勝で碁聖を奪取した。6度目の挑戦でようやくつかんだ初タイトルで「結果を出せてよかった」と息をついたという。

 高校に進学しないトップ棋士もいる中、新碁聖は今春大学を卒業すると、父親が社長を務める河北新報社(本社・仙台市)に入った。早速、コロナ禍の棋士の巣ごもり生活をホームページで記事にし、記者デビューを果たしている。極めて異色の二刀流である。

 将棋界は18歳の藤井聡太二冠の活躍で注目度が高まっている。盛り返したい囲碁界にとって、新碁聖の発信力は大きな武器になるかもしれない。早打ちで国際棋戦にも強い自らの勝負手を記事で分かりやすく解説し、素人にも幽玄の世界をのぞかせてほしい。