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 内田百閒の随筆「鹿児島阿房列車」に、車窓から見た熊本県の球磨川の描写がある。「宝石を溶かした様な水の色が、きらきらと光り、或(あるい)はふくれ上がり、或は白波でおおわれ、目が離せない程変化する」。

 今のJR肥薩線・人吉-八代間は、蒸気機関車の「SL人吉」が走るなど観光客に人気の路線だ。7月の豪雨で球磨川が氾濫して寸断され、いまだ復旧の見通しが立たないのが気になる。

 さらにJR九州から今週、厳しい現実が示された。2019年度の区間別収支で、人吉-八代は前年度5億7000万円だった赤字が6億2000万円に悪化していた。

 復活しないまま廃線になりはしないかと心配する地元の人は多いと聞く。JRにとって住民の足を支える使命感は会社の出発点であり、誇りでもあろう。とはいえ営利企業である以上、年々積み重なる赤字を放置しては立ち行くまい。

 鹿児島県内も人ごとではない。吉松-隼人や指宿-枕崎など、3億円を超す営業損失を計上している。沿線自治体はこれまで度々JRに路線維持を要望してきた。利用促進へさらに知恵を絞りたい。

 百閒が描く昭和20年代の鉄道の旅は、風景も車内で出会う人も実に個性豊かである。時は移ろうとも、ローカル線は地元の人々の息づかいに満ちている。旅人を引きつける地域の魅力にほかならない。この財産をいつまでも持ち続ける妙案はないものか。