( 8/30 付 )

 薩摩川内市の下甑島北端に立って海峡の藺牟田瀬戸を眺めた。対岸に中甑、奥には上甑の島影が浮かぶ。晴れ渡った夏はエメラルドグリーンの海面と断崖が美しい。足元でカノコユリが揺れていた。

 中甑島まで最短部で1.2キロほどだが、冬場を中心に波や風が荒く、それぞれの島民には遠い対岸だった。かつて自社の船で頻繁に往来した上甑町の建設業、山口募(つのる)さんは「しけのひどいときは命懸けだった」と話す。

 山口さんは20年ほど前、幼かった長女が賞を取った絵を今も覚えている。藺牟田瀬戸に橋が架かり、動物たちが楽しそうに渡っていた。父親の身を案じる気持ちが描かせたのだろうか。子どもらしい夢の世界に心が温かくなった。

 その海峡に県内最長1533メートルの甑大橋が開通し、3島が陸続きになった。構想から半世紀以上、着工後もしけなどで工期が延びた。船を多用した工事は細心の注意を求められたようだ。

 架橋で便利になり、島民は歓迎一色と思いきや「地元の港に船が着かなくなるのでは」「旅行日程が短縮されて宿泊客が減らないか」という声もある。島の社会や経済に与えるインパクトが大きく、思わぬ副作用を心配する気持ちもあるのだろう。

 とはいえ海で隔てられていた人々が交流し知恵を寄せ合うことで新たな発想、協働が生まれる可能性が広がった。より豊かな甑島への「夢の懸け橋」にしたい。