( 8/31 付 )

 かりっとした口当たりなのに中はしっとりふわふわ、ほのかな甘みがちょうどいい。93歳の上野正子さんが作る揚げ菓子サーターアンダギーは優しい味がする。

 沖縄のドーナツとも言われる。生まれた石垣島を13歳で離れて以来暮らす鹿屋市の国立ハンセン病療養所「星塚敬愛園」で、折に触れて身近な人たちに振る舞ってきた。評判の味が一般向けにもデビューすることになった。

 園内に先日、入所者や職員、訪問者との交流を目指した食堂がオープンした。40席を設け、プロの料理人が指南したラーメンやカレーライスを提供する。上野さんのサーターアンダギーも5個200円で販売している。

 上野さんは、映画「あん」で故樹木希林さん演じる女性のモデルになった。映画ではどら焼き店で働くあんこの名人として描かれたが、長年作っているのは古里沖縄でおなじみの菓子である。郷愁を呼び起こす味なのかもしれない。

 とはいえ、何も知らされないままに敬愛園に連れてこられ、以後、そのままで現在に至る。壮絶な人生とは対極にあるサーターアンダギーは、訪れる人の笑顔を広げていくに違いない。

 園は今、コロナ禍で来客を制限している。食堂を思いのままに訪ねることができないのは残念だ。岩川洋一郎自治会長は「収束したら多くの人に来てほしい」と期待する。あの味との再会を楽しみにしばらく待つとしよう。