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 その子には発達の遅れがあり、小学校入学前に検査を受けることになった。医師が尋ねた。「お父さんは男です。お母さんは?」。その子は大きな声でこう答えた。「お母さんは大好きです」。

 母親はうれしくて胸がいっぱいになったという。かけがえのない母親を慕う言葉は、一生の宝物になったに違いない。作家の柳田邦男さんが著書「人の痛みを感じる国家」で紹介しているエピソードである。

 親子の信頼の温かさがことさら心に染みるのは、対極にあるような事件が後を絶たないからかもしれない。鹿児島県警が昨年、虐待の疑いで児童相談所に通告した児童数は1572人に上り、2015年の15倍に増えた。

 昨年8月、出水市で4歳女児が死亡した。母親の交際男性から殴られるなどしたことがあり、母親の育児放棄にも遭っていたという。警察と自治体、児相の連携不足が表面化した痛恨事だった。

 今年7月には、鹿児島市で両親から11日間も自宅に放置された3歳と1歳の女児が保護された。通りをさまよう女児に気づいた人の110番通報に救われたが、命に関わる事態になってもおかしくなかった。

 虐待通告の急増は、全国でこうした事件が相次ぎ、市民の関心が高まった面もあろう。命を救う態勢づくりにつなげたい。悩んでいる親に、宝物のような出来事に出合える子育ての喜びを伝えられる機会もあればいい。