( 9/15 付 )

 二十数年前、鹿児島市荒田の知事公舎を夜に取材で訪ねた。インターホンを押すと、知事が玄関に現れた。「まあ上がりなさい」。前触れもなくやって来た面識のない若い記者を招き入れた。

 時の知事は須賀龍郎さん。中央官僚出身者が5代続いた鹿児島で初めて誕生した県職員からの“たたき上げ”だった。ぶしつけで要領を得ない質問にもじっくり耳を傾けてくれたことを覚えている。懐の深さに引きつけられた。

 こちらのスガさんは自らをたたき上げの政治家とアピールする。自民党総裁に選ばれた菅義偉(よしひで)さんだ。横浜市議を務めた後、47歳で衆院議員に初当選した。地盤、看板を引き継いだ世襲でもなければ、官僚上がりのエリートでもない。

 秋田県の農家に生まれ、高校を卒業後に上京。工場で働いて入学金をため、法政大学で学んだ立志伝中の人でもある。「意志あれば道あり」という座右の銘がいかにも苦労人らしい。

 一方、公開討論会などでは発言に物足りなさや粗さが目立った。外交実績の乏しさを問われ、気色ばむ場面も見られた。官房長官会見では、「ご指摘は当たらない」と紋切り型の答弁を繰り返し、正面から答えないことも多かった。

 「令和おじさん」として知名度を上げた菅さんはあす、首相に選出される見通しだ。下積みの苦労を糧に、包容力のある政治を進めてこそ「たたき上げ宰相」の名が似合う。