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 人生を死から考える死生学の概念を日本に広げ、先日亡くなった上智大名誉教授のアルフォンス・デーケンさんがよく口にしていたドイツでのユーモアの定義がある。「にもかかわらず笑う」。

 苦しいにもかかわらず、悲しいにもかかわらず、笑いを忘れなければ自分も周りも幸せになれる。そんな生き方を自然に実践している人がいる。鹿児島市で洋菓子店を営む高谷浩史さんもその一人だ。

 3年前から病気などで厳しい食事制限が必要な人に笑顔を、と低糖質のケーキを次々と開発し、たちまち評判を呼んだ。一部商品はネット通販を始めたところ全国から注文が殺到している。

 香川県出身。カヌーで国体優勝するほどの体力が自慢だったが、21歳で膵臓(すいぞう)のインスリンを出す細胞が壊れる1型糖尿病を発症する。「一生治らない」の告知に泣いた両親を見て、「笑って生きよう」と決めた。

 とはいえ、就職しても体調不良で続かない。絶望の末、山にこもろうとスキー場で経験したアルバイトが転機となって料理、そして菓子作りの道に入る。母親に「男の子でも一通りは」と教え込まれた家事と生来の味覚や造形のセンスが生きた。

 「お得意には子どもさんたちもいる。おいしいと喜んでもらえるのが最高の幸せ」という。コロナ感染を懸念する妻の望みで接客に出ない今も、ガラスの向こうの厨房(ちゅうぼう)で、にもかかわらず笑っている。