( 9/19 付 )

 大林宣彦監督の映画「22才の別れ」で、女性がヒガンバナの群生する墓地を歩きながら「葉見ず花見ず」とつぶやくシーンがある。花と葉は同時に見られないことから付いた別名である。

 葉を落とし夏の休眠で栄養を蓄えると、ちょうど今ごろ花だけが顔を出す。燃えるような真っ赤な花びらに目を奪われるが、球根に毒を持つ。田畑のモグラや害虫よけに使われ、墓地でよく見かけるのは土葬の名残とされる。

 今日は秋の彼岸の入り。昼と夜の長さが同じになる秋分の日を中日として、前後3日間の計7日間が彼岸である。仏教では先祖のいる彼岸は西に、現世のわれわれの此岸(しがん)は東にある。太陽が真西に沈む秋分は先祖と通じやすいのだという。

 ヒガンバナに誘われるように、墓参りに出掛ける人も多かろう。「暑さ寒さも彼岸まで」で作業もしやすい。墓石を丹念に拭き、生花を手向けて手を合わせれば、心も洗われる。

 墓参がままならない人向けに、墓守の代行も人気だ。鹿児島市シルバー人材センターによれば、この時期だけでも数十件の依頼が届いている。コケ取りや草むしりに細かく気を配り、担当者は「依頼主の気持ちを大切にしたい」と話す。

 南日柳壇から<彼岸花父母の故郷の方へ散る 前田一天>。秋風に揺れるヒガンバナは、亡き家族らを思い起こさせるのだろう。過ぎし日々を静かに振り返る秋の一日もいい。