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 人形浄瑠璃というと大阪に国立劇場がある文楽が有名だが、それ以前の形をとどめる古浄瑠璃の文弥(ぶんや)節もある。4県だけに残っており、その一つが薩摩川内市の東郷文弥節だ。

 江戸前期に岡本文弥が大坂で始めた一流派で、東郷では参勤交代に随行した郷士が師匠を連れ帰って始まったとの説がある。地元では「人形踊い」とも呼んでおり、語りや人形の造作の素朴さが味わい深い。

 新型コロナで年3回ある定期公演は休演中だが、月1回は公民館に集まって稽古を重ねている。のぞいてみると、小中学生の男女3人が重い人形を手に頑張っていた。うち2人は姉妹で三味線担当の女性の孫という。

 祖母の姿に憧れて入ったのだろう。ありがたい人材である。東郷文弥節は人材不足から何度か活動が途絶えた。そのたびに経験者の記憶を頼りに芸を復活させて、命脈を保ってきた。

 平成に入ると保存会が発足、忘れられていた演目を二つよみがえらせた。当時の会長は手がかりを求めて、伝承する新潟の佐渡に赴いたが、楽器や歌い方が異なり、まねできない。考えすぎて胃炎になったそうだ。

 2008年には国の重要無形民俗文化財に指定され、近年は安定して公演を続けてきた。一度中断したものを再開する大変さはどこよりも分かっている。逆境でも練習を続ける姿からは、300年超の歴史を後世につなぐ心意気が伝わってくる。