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 ドラマでも活躍する落語家の立川談春(だんしゅん)さんが修業時代、1年半遅れで一門に加わったのが志らくさんだ。覚えが早い天才肌の弟弟子が生意気で談春さんは面白くない。

 そんな胸中を見透かした談志師匠が諭す。「現実は正解なんだ。現状を理解、分析してみろ」。初めて冷静に現実と向き合い、弟弟子の落語への深い愛情と陰の努力に気付いたという。エッセー「赤めだか」で振り返っている。

 星野リゾートの星野佳路(よしはる)代表が社員向けブログで公開している「倒産確率」も、現状を理解してもらうためだ。コロナ禍でホテルや旅館の予約が激減した5月から投稿している。現金流出などの財務状況を基に数字をはじき出した。

 5月が38.5%、6月は40.1%。あわやという数字だが、投稿への評価は爆発的に高まった。社員が知りたかった会社の厳しい状況が明快になったからだ。星野さんは次に問うた。「じゃあ、今は何をするべきか」。

 3密回避の手だてやこまめな情報発信、近場での旅提案など社員から次々とアイデアが寄せられた。業績も回復の兆しを見せ、8月の倒産確率は18.3%に改善した。危機を知ることで生まれた社員の自主性に、星野代表の顔は明るい。

 談志師匠の話には続きがある。現状を理解しても、次の行動が起こせない人を「俺の基準で馬鹿(ばか)と云(い)う」。談春さんは転機となった師匠の言葉を今も胸に刻む。