( 10/22 付 )

 鬼退治といえば、まず思い浮かぶのは腰にきび団子を下げた桃太郎だろう。だが、人によっては市松模様の羽織をまとった竈門(かまど)炭治郎(たんじろう)をイメージするかもしれない。

 漫画やテレビアニメが大ヒットしている「鬼滅(きめつ)の刃(やいば)」の主人公である。先週公開された映画も、興行収入や観客動員数の記録を次々と塗り替えている。話題に乗り遅れまいと、アニメを見てみた。

 舞台は大正時代。鬼に家族を殺された少年が、唯一生き残ったものの鬼と化した妹を人間に戻すために戦う。印象に残ったのは、鬼たちが抱える事情の丁寧な描写だ。恐ろしい姿の怪物も元々は人間で、虐げられた悲しい過去をそれぞれ引きずっている。

 激しく渡り合いつつ炭治郎は相手の屈折した思いに心を寄せ、時には共感さえ示す。異形の敵にも敬意や優しさを失わない主人公の精神が作品に奥行きを与え、大人も引き込む魅力になっているのだろう。

 歌人の馬場あき子さんは著書「鬼の研究」で古典に登場する鬼を分析している。鬼の概念を「繁栄の犠牲的暗黒部に生きた人々」「朝廷の王権に服従しなかった人々」と読み解く。

 馬場さんの視点は体制の外に置かれて差別され、敵視された人々の側にある。それは炭治郎が鬼たちの背負う宿命を胸にしまったまま戦わざるを得ない悲しさと通じるのではないか。一歩踏み込んだ味わい方ができる作品なのかもしれない。