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 作家・重松清さんの短編集「青い鳥」に、村内先生という中学の非常勤講師が出てくる。カ行とタ行の音が言葉の最初にあると、声が出なくなる。顔を真っ赤にして懸命に話すが、喉が詰まったようになってうまくいかない。

 ただ、子どもの苦しみを察知する感度は人一倍鋭い。いじめの加害者になってしまった子、父親が自殺してしまった子らの独りぼっちの苦悩を理解する。そっと身を添わせ、勇気を振り絞って次の一歩を踏み出すまで見守る。

 米大統領選で勝利を確実にしたバイデン氏も子どもの頃、吃音(きつおん)に悩んだそうだ。緊張すればするほど言葉がつっかえる。からかわれ、まねされ、随分苦しんだ。

 一念発起したのは高校時代である。夜、鏡の前で詩を朗読する自主特訓を重ねた。やがて多くの人にメッセージを発する政治家になり、国の最高権力者にまで上り詰めるのだから、努力の人なのだろう。

 吃音は人口の1%程度が発症すると推定されている。症状名は付かずとも、テンポよく話すのが苦手な人もいる。伝えたいのに伝えられない心の重荷を背負って生きる人は決して少なくない。

 バイデン氏には父親の失業、交通事故による前妻や子との死別など、つらい過去がある。悔しさや深い悲しみの涙の味を知る人なのかもしれない。超大国の新リーダーの誕生が、孤独に沈む世界中の人たちの次の一歩につながればいい。