( 11/17 付 )

 マスクを着けたまま、アクリル板越しに話をする機会が増えた。厚さは数ミリしかないが、声が聞き取りづらく感じることがある。相手の口の動きも見えないから厄介である。

 繊細な音を聞き分けなければならない世界では、壁のように立ちはだかることもあるらしい。鹿児島交響楽団は管楽器奏者の前に飛沫(ひまつ)防止のアクリル板を立てて練習したが、音が遅れて聞こえるなど苦労が多かったという。

 そんな困難を乗り越え、1年ぶりの定期演奏会をおととい、鹿児島市の宝山ホールで開いた。ステージ上にアクリル板こそなかったが、指揮者と管楽器奏者以外はマスク姿で演奏した。

 モーツァルトの優美な調べがホールに鳴り響くと、熱いものが込み上げてきた。6月の定期演奏会は、半世紀近い楽団の歴史で初めて中止に追い込まれただけに、「何とかコンサートを開きたい」という団員たちの気持ちが乗っているように感じられた。

 「心置きなく音楽を届けられる日が来ることを祈って」。指揮者の坂本和彦さんは、そう前置きしてアンコール曲を披露した。バッハの穏やかな旋律はコロナ禍に苦しむ全ての人をいたわっているようだった。

 例年夏に開かれる霧島国際音楽祭は来年1月に延期された。コロナの感染拡大が気掛かりだが、若い音楽家を育ててきた40年の歴史がつながるよう祈りたい。音色に癒やされたい人々のためにも。