( 12/16 付 )

 小松政夫さんの訃報を聞いて、ハチャメチャなギャグとともに懐かしく思い出した人がいる。名コメディアンが度々物まねをした映画評論家の淀川長治さんである。

 学生の頃、映画ファンが集う会で何度か話を聞いた。家庭用ビデオも普及していない時代、昔の作品を紹介する話術と記憶力に圧倒された。その中の1本がフランク・キャプラ監督の「素晴らしき哉(かな)、人生!」だった。

 戦後初めてクリスマスを迎える米東部の小さな町。誠実に生きてきた男性が突然、破産と逮捕の危機に立つ。「生まれてこなければよかった」。絶望の淵で出会った天使を名乗る人物は「では、生まれなかったことにしよう」と告げる…。

 後に実際に鑑賞して、全ての人生に意味があるというシンプルで力強いテーマに改めて胸を打たれた。名作はアメリカ映画協会「感動の映画ベスト100」で1位に輝き、今も全米で繰り返しテレビ放映される。

 コロナ禍は一向に収まらず、「Go To トラベル」は一時停止の急ブレーキを踏む事態となった。経済的苦境や孤独に悩む人につらい年の瀬である。希望をつなぐ国や自治体の支援策が急がれる。

 淀川さんはよく、「映画を見ると気が利くようになる」と語った。時と場にふさわしい振る舞いが自然に身につく、との意味だ。天使や映画好きでなくても、近くに孤立した人はいないか目配りに努めたい。