( 12/24 付 )

 渡世人の忠太郎は、五つの時に生き別れになった母おはまを捜し続けている。料理茶屋のおかみになっていることが分かり、会いに行った。昭和初期に大ヒットした長谷川伸の戯曲「瞼(まぶた)の母」のヤマ場だ。

 おはまは息子と気づきながら、事情があって知らぬ存ぜぬで通す。帰り道、忠太郎はつぶやく。「会いたくなったら、目をつぶろうよ」。まぶたの裏に焼き付いた母の面影なら、いつでも会えるというわけだ。

 年末年始、多くの高齢者施設が入所者の一時帰宅を見合わせている。新型コロナの感染拡大が一向に収まらないからだ。海外では感染力が強いとされる変異種のウイルスも見つかっており、慎重にならざるを得ないだろう。

 入所者の家族にしても、自身が無症状で知らないうちに感染している可能性はゼロではない。施設内の集団感染を招かないためにも、今は危険を冒す時ではない。

 春以降、ほとんどの施設が家族との面会制限など厳戒態勢をとってきた。5月の連休もお盆も自宅に帰れず、電話で「正月こそは自宅で一緒に」と励まし合ってきた親子もあったろう。高齢者が重症化しやすい感染症の特性が恨めしい。

 まぶたを閉じて母親の面影を思い浮かべるしかなかった忠太郎とは違い、今はテレビ電話がある。透明のアクリル板越しに面会できる施設もある。家族で過ごせる日が待ち遠しいが、しばらく辛抱しよう。