( 12/30 付 )

 「水かさのへった冬の川はひとしお澄みきって、冷たい音をたてて流れた」。郷土料理研究家の故石神千代乃さんが、谷あいの村の歳末風景を「さつま料理歳時記」に書き留めている。

 「母屋も土蔵も物置き小屋も、その入口には房々と枝を張った威勢のよい門松が立って、赤いダイダイと木炭をくくりつけた七五三(しめ)縄(なわ)が張られた。庭にはシラスがまかれ、きちんと掃木目(ほうきめ)がついた」。

 大正初期の思い出という。川のせせらぎがいつにも増してよく聞こえ、家の周りの空気は張り詰めている。年越しの準備を終えた村は師走の慌ただしさが消え、静謐(せいひつ)さに包まれる。正月の原風景に違いない。

 新年を清新な気分で迎えたいとの願いは、たとえ時代が下っても変わるまい。今年も残り2日、1年間のほこりを払った後、カレンダーを掛け替えたり鏡餅を供えたりと、正月準備はそろそろ大詰めだろうか。

 年末年始は寒さへの備えも必要になりそうだ。列島上空に強い寒気が流れ込み、薩摩地方の山沿いでは大雪の恐れがある。県本土の平地でも積雪が予想されるというから油断できない。

 政府は新型コロナ下で帰省を見合わせるなど「静かな年末年始」を呼び掛ける。いっそ寝正月を決め込み、声の便りを待つのもよかろう。南日本歳時記から1句。<来る年のよきこと聞かむ受話器拭く 藤井富子>。今年は特にしっかりと拭きたくなる。