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 江戸時代のお家騒動を題材とした歌舞伎「毛抜(けぬき)」の大詰め、主人公の粂寺弾正(くめでらだんじょう)は預かった刀を抜いて悪者を成敗する。東京で幕開けした「初春海老蔵歌舞伎」で市川海老蔵さんが演じている。

 刀は小野小町の子孫に当たる家の重宝である。縁談相手の家から遣わされた弾正が名推理で悪事を暴き“伝家の宝刀”で事を収めたわけだ。スパッと決着させる一太刀が小気味よい。

 新型コロナの感染急拡大を抑えようと、政府は首都圏の1都3県に緊急事態宣言を出した。とっておきの手段という意味で伝家の宝刀に例えられるが、こちらの切れ味はどうか。知事たちにせかされた末の発令だから、付け焼き刃のように見えて心配になる。

 同じ緊急事態宣言でも、都心の繁華街から人影が消えた昨年4月とは様子が異なる。今回は飲食店への営業時間短縮要請が中心で、学校の一斉休校などはない。何よりの違いは人々のコロナ慣れ、という新たな敵の出現ではないか。

 来月7日までの1カ月。短期間での効果を疑問視する声もあるが、医療の逼迫(ひっぱく)や飲食店の苦境、さらに全国への影響を思えば、早く落ち着くことを願うばかりである。

 明るい未来を予感させる「毛抜」は新年にふさわしい演目だ。ウイルスへの一太刀も望外の切れ味を発揮してくれるといい。それには一人一人が行動を見直すしかない。もう自分にできることはないのか、と。