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 「日本のいちばん長い日」といえば、太平洋戦争終結の日の内幕を描いた映画を思い出す人が多いのではないか。原作は月刊誌「文芸春秋」に掲載された座談会の内容に取材を加えた同名の単行本である。

 終戦時の政府や軍部関係者ら、責任ある立場にあった人々が語る敗戦に至る経緯が生々しい。座談会を企画し、司会を務めたのが編集者だった半藤一利さんである。後に自身の著述に専念し、戦争の悲惨さを訴え続けた。

 中学生の時に体験した東京大空襲が著作の原点にある。猛火の中を生き延び、黒焦げの死体を見ても何も感じない自分に「人が人でなくなる戦争の真の恐ろしさ」を実感したという。戦争への疑問が昭和史研究に駆り立てたに違いない。

 「日本をリードしてきた人びとは、なんと根拠なき自己過信に陥っていたことか」「日本人は毎年8月に『正気』を取り戻さなければならない」。発した言葉に国家や軍が暴走し、世論が熱狂した日本の過去への悔いがこもる。

 「昭和史の語り部」と呼ばれることを好んだ。聞き手が飽きないよう心を込め、事実を公正に語り伝える。そんな役回りを自らに課し、多くの著作を残した半藤さんが90歳でこの世を去った。

 平成を越え、昭和の教訓が薄れる印象は否めない。「しっかり見なければ見えない、歴史は決して学ばなければ教えてくれない」。珠玉の言葉を胸に刻みたい。