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 床に足跡の印があれば、大方の人があまり深く考えずそこに立つだろう。コンビニやスーパーのレジ前なら自然とソーシャルディスタンス(社会的距離)が保たれ、新型コロナウイルス感染予防になる。

 こうした人々の動きをより良い方向へ導く「ナッジ」と呼ばれる行動経済学の手法が注目されている。「軽く肘でつつく」といった意味の英語で、当事者の自由を尊重し、強制はしない。最適な選択をするよう、そっと背中を押すのが肝らしい。

 そんなさり気ないやり方では不十分と考えたか。政府は、感染者の入院拒否などに罰則を設ける法改正案を開会中の国会に提出する構えだ。菅義偉首相は先週、感染抑止にあらゆる手段を尽くすとし、国民に「徹底して行動を見直して」と呼び掛けた。

 感染収束の兆しが一向に見えない中で強い対策を打ち出し、効果を高める狙いに違いない。ただ、病床が足りずに入院できない感染者がいる状況で、入院を強制する法改正を急ぐのはちぐはぐな印象が拭えない。

 そもそも、感染予防と経済の両立にこだわった政府の対応が後手に回ったとの批判は根強い。危機に陥り、慌てて極端な措置に走ったのなら危うい。私権の制限には慎重な議論が不可欠だ。

 好ましい行動を思わず選びたくなるよう工夫するのがナッジの基本である。罰則を科して従わせる手法とどちらが効果的か、考えてほしい。