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 福岡県太宰府市の九州国立博物館にある「知恩院・弥勒(みろく)下生経変相図(げしょうきょうへんそうず)」は、14世紀の朝鮮高麗時代の掛け軸だ。絹に墨と絵の具で説法する弥勒菩薩(ぼさつ)が描かれている。

 仏教史を語る上で貴重な作品だが、2011年を最後に公開されていない。展示中の光や湿気による劣化など損傷が目立っていたからだ。修復は絹の補充や絵付けなど緻密な作業の繰り返しである。3年の歳月を要し、ようやく26日からの公開にこぎつけた。

 古い掛け軸や巻物に裏打ちされた和紙の貼り替えに欠かせない材料が「古糊(ふるのり)」だ。強すぎず弱すぎずの接着力が、繊細な仕上がりを生み出す。同館は毎年1月の大寒前後にスタッフ全員が集まる行事「寒糊炊き」で古糊を作っている。

 原料となる小麦のでんぷんと精製水を、大きなずんどう鍋で煮詰めながら交代でかき混ぜ続ける。1日がかりで炊き上がった新糊計10キロは甕(かめ)に移し替え、10年間冷暗所で寝かせる。微生物の働きによって適度な接着力に弱まっていくという。

 甕には糊作りに加わった全員の名前を墨書きした和紙で封をする。保存修復室長の志賀智史さんは「名を記すだけでなく、貴重な作品を手掛ける使命を皆が心に刻む日」と語る。

 およそ10年ぶりとなる掛け軸の公開に合わせ、修復工程を学ぶパネルや材料、道具も展示される。貴重な展示物を守る裏方たちの誇りある仕事ぶりにも注目したい。