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 1872(明治5)年、日本で初めての鉄道が東京・新橋-横浜間に通った。汽笛一声新橋を-。鉄道唱歌でも知られる新橋停車場は現在のJR新橋駅ではなく、数百メートル離れた汐留にあった。

 東京駅の開業に伴い、旅客ターミナルの役目を終えて貨物専用の汐留駅となった。駅は1986年に廃止され、跡地には今、再開発の高層ビルが立ち並ぶ。かつて東京の玄関口だった停車場の史跡は、ビル群の足元にひっそりとたたずむ。

 その汐留がまた変わろうとしている。広告大手の電通グループが本社ビルの売却を検討しているからだ。地上48階、高さ約210メートル。ビル群の中でもひときわ威容を誇る。完成から20年たたない。売却見込みは国内最高の3000億円規模というから驚く。

 きっかけはやはり新型コロナだった。リモートワークが進んで約9000人の出社率は2割にまで減ったという。無駄なスペースができたことに加え、資産の効率化を図る狙いもあるようだ。

 電通は売却後も一部を賃借する方針だが、汐留では日本通運の28階建てビルの売却話も浮上した。オフィス需要が低迷する中、街の活気が失われないか、周辺の店や会社は気掛かりだろう。

 コロナ禍で働き方が変わり、企業の格を示す巨大な自社ビルは無用の長物になるのか。明治の人々に鉄道の時代到来を告げた汐留から、近未来の企業の姿が見えてくるかもしれない。