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 日本人は昔、散歩の習慣がなかった。目的のない「ぶらぶら歩きなどは、はしたないこと」だったと、作家の大佛(おさらぎ)次郎が「散歩について」という随筆に書いている。

 そんな世間体も気にせず街を歩き回ったのが、江戸城無血開城を西郷隆盛と成し遂げた勝海舟らしい。うろたえる幕府の中で的確な判断ができたのは、歩く間に庶民の暮らしに触れ、世の動向を見定めていたからだという。頭を柔軟にし、優れた発想を生んだのは散歩の効用かもしれない。

 朝な夕な人々がそぞろ歩く光景はいまや日常である。国も健康維持に1日の歩数目標を示すなど、後押ししてきた。新型コロナウイルス対策で不要不急の外出自粛を国民に要請する一方で「散歩は対象外」と政府方針に明記した。

 視点を変えて散歩すれば、近所は宝の山になる。そんな極意を月刊誌「散歩の達人」編集長が先日の本紙で披露していた。道端の野草や花に目を凝らし、鳥の声に耳を澄ます。自然のちょっとした変化を発見する楽しみがある。

 時間帯をずらしたり、普段は歩かない路地に入ったりするのもいい。街が違って見えて、新たな魅力に気付く。会員制交流サイト(SNS)で発信すれば、さらに世界が広がると勧める。

 暦では春のはしりである。巣ごもりで内に向かいがちな心を解き放つのにいい時季だろう。小さな春を探して近所をぶらぶら歩いてみようか。