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 忘れっぽく、気力に欠け、万事に無感動気味の、だらりぶら下がった、舌と胃袋-。作家の辺見庸さんは新聞記者時代に書いた「もの食う人びと」で、飽食に慣れきった状態をこう表現した。

 一食一食のありがたさをつい忘れてしまいがちな昨今、手作り弁当は舌と胃袋に気力を呼び覚ましたのではないだろうか。霧島市のスナックバー「ちづる」のスタッフが、タクシーや運転代行のドライバーらに届けているという。

 県の営業時間短縮要請に応じる間、協力金の一部で恩返ししようと思い立った。始めたころは、頼んでもいない弁当を手渡され、戸惑う人もいたらしい。コロナ下で人と人との交わりが薄れているだけに、ぎこちない光景さえも胸に響く。

 「明るく頑張りましょう」。弁当にはそれぞれ手書きのメッセージが添えられている。苦しい時はお互いさまという気持ちがどれほどドライバーたちの心に染みたことだろう。

 営業時間短縮要請が解除され、普段通りの営業に戻った飲食店が多い。だが、客足が戻る保証はなく、先は見通せない。「経費を差し引いて残るのは、最低賃金にもならない」。タクシー運転手の嘆きが本紙に載っていた。一日一日を食いつなぐぎりぎりの生活は続く。

 国民に自粛を呼び掛けながら、ステーキ会食や料亭での接待に出掛ける与党議員や高級官僚に、手作り弁当の深い味わいは分かるまい。