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 疱瘡(ほうそう)とは天然痘のことで、予防接種が普及するまでは最も恐ろしい伝染病だった。鹿児島県内各地に伝わる疱瘡踊りは、悪疫退散を願う独特の民俗芸能である。女性の踊り手の優しく上品な舞がいい。

 「今年ゃよい年、おホソがはやる」。鹿児島市花尾町岩戸地区に伝わる踊り歌にそんな一節がある。疫病がはやるというのによい年とはいかに? 続けて「おホソ御神、踊り好きでござる。踊り踊ればおホソも軽し」とくる。

 歌詞を採録した民俗学者の下野敏見さんは著書「南日本の民俗芸能誌」で、疱瘡自体を神様扱いし、かかっても軽く済むよう祈りの踊りを神仏にささげたと解説する。疫病と闘うのではなく、やり過ごすしかなかったのだろう。

 天然痘は、人類が根絶できた唯一の感染症である。18世紀末に英国の医師ジェンナーが種痘を開発したのを機に地球規模でワクチン接種が進み、効果を上げていったとされる。1980年の根絶宣言まで、思えば長い道のりだった。

 新型コロナウイルス感染症は発生から1年が過ぎた。異例の速さでワクチン開発が進み、日本でも接種が始まったが、行き渡るまでしばらく時間がかかるだろう。マスクを手放せない日が続く。

 それにしても、人々が集うことさえままならず、多くの民俗芸能が中止を余儀なくされた。祈りの踊りも受け付けないとはコロナの神様はずいぶん無粋とみえる。