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 季節外れの陽気に誘われて先日、東京・上野公園を歩いた。桜のつぼみはまだ固かったが、木陰にシートを広げた若者グループがおしゃべりを楽しんでいた。

 動物園や博物館もある広い公園は一見華やかだが、注意深く見回すとホームレスらしき人の存在に気付く。大きな荷物に囲まれて目を閉じる男性はヘッドホンをしていた。何を聴いているのか、それとも社会から耳をふさいでいるのか。

 その姿は柳美里さんの小説「JR上野駅公園口」に描かれる主人公と重なる。高度成長期に福島県から東京へ出稼ぎに来たものの、息子と妻に先立たれ、やがて上野公園でホームレスになる。

 駅は古里への玄関口である。だが、男性は帰るに帰れず、公園を行き交う人や何げない会話を見聞きするほど、孤独が増幅されていく…。

 ひと頃に比べ都内のホームレスはずいぶん減っている。自立支援や生活保護の適用が進んだという。でも、路上で見掛けることが減った代わりに部屋の片隅で孤独を深めてはいないだろうか。柳さんが小説に託したように「居場所のない人」に心を寄せたい。

 東日本大震災から間もなく10年になる。原発事故の影響で避難を強いられている福島の人々は少なくない。生活は立て直せても心の傷が癒えるには時間がかかるだろう。孤独を抱える人がいることを忘れてはなるまい。心の底から笑い合える春が待ち遠しい。