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 桃の節句と聞いて浮かぶ句に<飾られて眠らぬ雛(ひな)となり給ふ>がある。日本初のトーキーを撮った五所平之助監督が詠んだ。監督は映画に必要な省略や飛躍を学ぶには俳句が一番、が持論だったらしい。

 幼い頃を薩摩川内市の甑島で過ごした俳優の小倉一郎さんに教わった。人気ドラマ「俺たちの朝」などで気弱な青年を演じ、近年は是枝裕和監督らの作品で存在感を見せる。69歳の今は俳人としても活躍、四つの教室やNHKの首都圏番組で教える。

 「小倉一郎のゆるりとたのしむ俳句入門」によれば、初めての作句は二十数年前。先輩女優にほめられて、結社へ。やがて脚本家の早坂暁さんから、「蒼蛙(そうあ)」の号と「出口はないよ」との助言までもらってしまう。

 以来、苦闘して得た答えは「俳句は日々のつぶやき」。だから構えることなく詠んでみようとの誘いは、飄逸(ひょういつ)な人柄と相まって初心者にもなじみやすく感じられる。

 郷里への深い思いが込められた句も数多い。高速船の揺れをはやる心と重ねた<渡船(とせん)駈(か)け冬濤(ふゆなみ)を駈けふるさとへ>、同級生の暦にあった雌牛の出産予定日から春を知る<牛の名はりえみきさゆり風光る>。

 コロナ下、横浜市の家で顔を合わせない文面指導を続ける現在も、生徒に「作り続けて」と呼び掛けている。<焼酎やなんでんかんでん語らふて>。ささやかな幸せを屈託なく表現できる日を待ちわびる。