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 机の上にはランドセルが無造作に置かれ、黒板に大きな文字で「おちついてこうどうする」と書かれている。5日付本紙1面に載った福島県双葉町の双葉北小学校の教室の写真である。

 ランドセルには子どもたちのぬくもりが残っていそうだが、10年前の東日本大震災から時が止まったままだという。下校準備中に地震に襲われ、何も持たずに逃げた児童の恐怖心が生々しく伝わってきた。東京電力福島第1原発事故で町の大半はいまだに立ち入り禁止が続く。

 地震や津波に加え原発事故に見舞われた福島では、震災以来手つかずの場所や物が多く残る。福島県立博物館では当時の状況を克明に語る止まった時計や避難所の張り紙などを集めた企画展「震災遺産を考える」が開かれている。

 企画展に携わる学芸員が先日、ラジオでこんな話をしていた。「災害で壊れたものは捨て、新しいものを作ったり、直したりするのが普通だが、福島ではそれができなかった」。残された物を通じて語り継がねば、という思いだろうか。

 「今も避難している人たちがいる以上、震災遺産はこれからも生まれ続けていく」。学芸員の言葉に、震災はなお現在進行形であることを教えられた。

 あのランドセルの持ち主たちはすっかり大人に成長しているだろう。まだ誰も戻っていない町の教室で、福島の将来を語り合える日を待ち望んでいるに違いない。