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 赤ちゃんに頰を寄せる若い両親、新品のランドセルを喜ぶ子、卒業証書を手にした中学生とその家族…。鹿児島市の写真館のショーウインドーを飾る写真に目を引かれた。知った顔はなくても心が和んだ。

 家族写真は思い出の一瞬を閉じ込め、いつでも時計の針を戻してくれる。誰にとってもかけがえのないものに違いない。そんな一枚さえ容赦なくのみ込んだのが、10年前の東日本大震災の津波である。

 被災した東北沿岸部では当時、海水や泥に漬かった写真を被災者に返そうと、ボランティアが全国から駆けつけた。いったん乾燥させ、洗浄して干す手間がかかる作業に奔走する人々を追ったのが、2015年に出版された記録集「アルバムのチカラ」だ。

 宮城県名取市の体育館の床一面に置かれた写真の束やアルバムを写した一枚が膨大な作業量をうかがわせ、印象に残る。記録集を撮影した木村伊兵衛賞受賞の写真家、浅田政志さんは「活動する人への憧れと尊敬にも似た感情が撮る動機の中心になっていった」と振り返る。

 昨年出した増補版には、18年の西日本豪雨の被災地で写真を洗浄する様子も収められている。思い出を取り戻す善意の活動が引き継がれているのは心強い。

 写真が見つかった被災者の笑顔を活写した一枚からは、心を満たす支援のチカラを教わった。コンクリートで爪跡を覆うだけでは復興は終わらない。