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 白いテーブルクロスや色とりどりの花-。会場は厳かな中にも華やかな雰囲気に包まれる。中小企業の合併や買収(M&A)を仲介する日本M&Aセンターが契約成立の最後に開く成約式だ。

 譲渡書にサインすれば一連の事務は終わりだが、式はそこからが肝心な場面になる。乾杯を交わし、会社を手放す経営者側のビデオや手紙が朗読される。長年の苦労や苦渋の決断に至った背景、新しい会社への期待などを切々と語る。

 日本の中小企業の127万社が後継者不足といわれる。うち半数は黒字のまま廃業する恐れがある。M&Aが近年急増している理由の一つだが、買収された会社の従業員が納得できずに去るケースも時々見られる。

 鹿児島市に昨年進出したセンター役員の奥野秀夫さんも銀行マン時代に合併を経験した。買収した側、された側双方に少なからずあつれきがあったという。大手同士はドライな側面が強いとはいえ「割り切れない思いが残った」。

 奥野さんは一見古風な成約式を「現場の融合に欠かせない大切な場」と語る。式の様子は動画で新会社の全従業員に見せる。前の経営者がM&Aに込めたメッセージを、胸に刻んでもらうためだ。

 身を切る思いで会社を畳んだ経営者が最後まで願うのは、苦楽を共にした従業員の幸せである。M&Aも一つの選択肢だろう。よりよい再スタートが切れる道を選んでほしい。