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 小学生の娘が無邪気に言った。「悪石というのは、名前が悪かねえ」。父はこう応じた。「天国のようなよい島だから、敵が近寄って来ないよう、わざとこんな名前にしてあるんじゃ」

 40年前、悪石島を含む十島村の有人7島をルポした本紙連載「トカラ 海と人と」に出てくるやりとりだ。くだんの島から名称変更の提案が挙がったが、村議会が「世界地図を書き換えなくてはならなくなるから無理」と却下したエピソードもある。

 印象的な名の由来は定かでないが、いまやその名も逆手に取る。「悪」の一文字が大きく背中に入るTシャツや、「悪」マークが付いたヘルメットを身に着ける島民たち。旅ブログにしばしば取り上げられる姿は、誇らしげでたくましい。

 島の一帯で地震が続いている。トカラ近海で9日深夜から記録される震度1以上は、5日間の内に計240回を超えた。黒潮に流されまいと踏ん張る小さな島々の下を大蛇がうごめくようで不気味だ。

 中でも悪石島は震度4を5回も観測した。大雨が降れば地盤が緩み、土砂災害につながりかねない。人口60人余りの生活用水は山奥の水源地から引いている。いざという時の断水に備え、村営船で水を補給する動きもある。 

 世界無形文化遺産の仮面神ボゼに象徴される「神々の島」に暮らす人々は信仰心があついといわれる。静まれ静まれ。日々祈っているはずだ。