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 モノクロ写真は被写体を鮮明に再現するカラー写真以上に多くを語ることがある。米国人写真家の故ユージン・スミスさんが水俣市で撮った数々の写真はその好例だろう。

 1971年から約3年間住み込み、水俣病患者や家族の姿を追った。不自由な体や変形した指にもレンズを向け続けたが、病症の悲惨さだけを強調したわけではない。わが子に注ぐ親の優しいまなざしに焦点を合わせた。

 色彩を排した世界は見る者の想像力をかき立てる。愛情に満ちた普通の家族の日常につきまとう公害病のむごさを思わずにはいられない。水俣病を世界に伝えるという大きな役割を果たした。

 このユージンさんをモデルにした映画「MINAMATA」が今秋、全国公開される。製作と主演は米人気俳優のジョニー・デップさんである。硬質の社会派作品として昨年の海外の映画祭で話題を呼んだ。

 映画祭の会見で特に印象的だったのは、ジョニーさんが「実際に起きたという事実に衝撃を受けた。いまだに続くことはそれ以上に衝撃的」と語ったことだ。鹿児島、熊本両県で1400人以上が患者認定を待っている現状を知っているのかもしれない。

 水俣病が公式に確認されてからきょうで65年になる。大企業の営利主義や役所の問題先送り体質に、身も心も痛めつけられた家族の嘆きや憤りは続く。歴史の一幕に閉じ込めるわけにはいかない。