( 5/9 付 )

 1300年前も勤め人は何かと大変だったのだろう。奈良・東大寺の正倉院文書の複製に思わず苦笑した。8世紀に写経所で働いていた人の休暇願に、「汚れた服を洗うため」とあった。

 九州国立博物館で開催中の特別展「よみがえる正倉院宝物」は、災害や劣化に備え、明治以降に再現された品々を集める。当代の名工が技と情熱を注いだ工芸品は輝きを放つ。文書も裏の字の透け具合や墨の微妙な濃淡を忠実に写し、書き手の人柄まで伝わってくるようだ。

 泊まり込みで働く職員が休むには、希望の日数に理由を添えて上司に伺いを立てなければならなかった。故郷から急な知らせが届いたのか。「母の看病のため」と書かれた申請は、少し慌てた筆跡にも見えた。

 希望した3日間の休みで十分だったろうか。遠い奈良時代の人物に思いをはせるのは、新型コロナウイルス感染拡大で、離れて暮らす大切な人に会えないせいかもしれない。

 歌人の俵万智さんの一首が浮かんだ。<母の字で書かれた我の名を載せて届いておりぬ宅急便は>。外出もままならない日々、実家からの荷物はいつも以上に温かく感じる。

 感染が急拡大する中で母の日を迎えた。全国に緊急事態宣言が出されていた1年前、「来年こそ一緒に過ごそう」と励まし合った家族も少なくないだろう。再びかなわなくても、母の字を思い出しつつ声だけでも届けたい。