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( 5/21 付 )

 いわゆる巣ごもりで復活した趣味の一つが洋裁だ。部屋の隅からミシンを引っ張り出して、まずマスクを作った。テレビの手芸番組を参考に、裾が膨らむバルーンパンツも物にした。

 と言いたいが、およそ1年前に作った第1号は左右の丈がずれた失敗作だった。縫い目をほどくのも面倒で、取り繕って着ている。体裁をつくる、悪い点を隠す、ごまかす。「取り繕う」を辞書はこう解説する。愛知県知事のリコール(解職請求)運動を巡る事件はそれよりも数段、たちが悪い。

 美容外科医と名古屋市長が前面に立ち、運動は始まった。事務局長が署名偽造に関わったとして、地方自治法違反の疑いで逮捕された。遠く離れた佐賀市に署名簿を持ち込み、アルバイトに有権者の名前を代筆させていたという。

 事務局長は打ち合わせの場で、書き写しを実演して見せたとも報じられる。愛知県選挙管理委員会は、提出署名の8割に当たる約36万人分を無効と判断した。「民意の偽造」との指摘は当然だ。

 「知事への批判キャンペーンの展開が目的だったのでは」と分析する選管関係者もいる。代筆を誰が言いだしたか。運動をリードした2人の責任はどうなるのか。書き写した原本は、どこから流れたのか。

 署名目標数の大きな型紙に合わせようと取り繕われた事件は、まだまだ分からないことばかり。縫い目がほどかれるのはこれからだ。