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 思っていたより小さくて驚いた。福岡市博物館に常設展示されている国宝の金印だ。「漢委奴国王」と彫られた印面は2.3センチ四方で、10円玉とほぼ同じ大きさという。

 西暦57年に後漢の光武帝が授けたとされる。歴史の中でどんな役割を果たしたのかを想像すると一層輝いて見える。日本では飛鳥時代に公文書に官印を押す様式が定められた。以降、はんこは役所に欠かせない存在になった。

 令和の時代になり一転、「脱はんこ」が進む。金印を所蔵する福岡市は全国に先駆けて昨年9月末、市に提出する申請書類の押印義務を全廃した。国も行政手続き1万5000種のうち99%で廃止する方針だ。

 押印見直しは行政のデジタル化の一環である。オンライン申請で窓口での接触が減ると、新型コロナウイルス対策にもなる。政府は国や自治体のシステムを抜本的に改善し、国民に利便性の高い行政サービスを提供すると意気込む。

 果たしてそうなるだろうか。ワクチン接種で予約が取れない高齢者の嘆きを聞く。コールセンターへの電話はつながらない。専用サイトの利用を勧められても、インターネットが使えない人も多い。

 福岡市は脱はんこ後も自筆の署名が難しい場合は、押印を認めるなど柔軟に対応する。地域にはさまざまな事情を抱える人がいることを忘れてはならない。判で押したような「お役所仕事」こそ脱すべきだろう。