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( 5/24 付 )

 都会は人間関係が希薄で潤いが足りない。こんな印象を強調するのが「東京砂漠」という言葉だろう。前川清さんの低音が響く同名のヒット曲では、肩を寄せ合える相手なしには生きづらい街が歌われる。

 この言葉が登場したのは、曲の発売より10年以上早い1964(昭和39)年である。意味するところも都会の軽薄な人情ではなく、文字通りカラカラに乾いた東京、つまり大渇水だった。

 10月に日本で初めての五輪を控えたその夏は、日照りが続く異常気象だった。高度成長による慢性的な水不足に追い打ちをかけるように、ダムや貯水池は干上がった。五輪の前には昼間も断水するほど厳しくなり、「東京砂漠」と呼ばれたという。

 自衛隊や米軍の給水車がフル稼働し、井戸を掘る家まで現れる騒ぎとなった。国は突貫工事で利根川の水を荒川に引いた。華やかな祭典の裏にかすむ歴史である。

 人口が集中する首都圏は水不足の懸念が付きまとう。2度目の東京五輪が予定される真夏に向け、今も利根川上流のダム群の水を温存する対策がとられている。既に梅雨のような天気が続いて危機感は乏しいが、十分な備えで渇水の再来を避けられるといい。

 長引くコロナの緊急事態宣言で息苦しさが募り、五輪の開催を巡ってもさまざまな意見が飛び交う。ぎすぎすした空気が広がり、渇き切ってしまいそうな心に潤いを取り戻したい。