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 その復活劇に、コロナ禍でふさぎがちな気分が晴れた人も多かろう。故障を乗り越え陸上男子100メートルで9秒95の日本新記録を樹立し、東京五輪代表選考に向けて存在感を示した山県亮太選手だ。

 ライバルたちに9秒台を先に出され、焦りもあったに違いない。しかし、くさることなく、重心を前に置いて前半からスピードに乗る走りに磨きをかけた。ひたむきな努力で逆境をはねのけた姿は見る者の胸を打つ。

 こうしたスポーツの力は、時に競技者自身の背中も押す。東京パラリンピックのパラトライアスロン代表入りを狙う谷真海(まみ)選手の経験談が、小学生向けの道徳の教科書で紹介されている。

 大学2年の時、骨肉腫で右脚の膝から下を切断した。暗闇に突き落とされたような日々の中、障害者スポーツに出合い、ありのままの自分こそ大切にすべきだと気付いた。スポーツは「前向きに生きていくために、新たな夢や目標を与えてくれる」と言う。

 2人が出場を目指す大舞台が刻々と近づく。ただ、ワクチン接種が加速してきたとはいえ、開催に伴う人の移動が新たな流行を招きかねないという懸念は消えない。

 影響や対策を検討する専門家に対し「自主的な研究成果」と言ってのける閣僚に、開催ありきの政府の姿勢が透ける。誰もがスポーツの力を感じられるのは安心安全の環境があってこそだ。ここは冷静に、賢明な判断を。