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 昔、中国の殿様が狩りに出掛けた際、大きな乗り物に立ち向かってくるカマキリに出合った。殿様は強敵を前にひるまない勇気をたたえ、避けて通った。故事成語「蟷螂(とうろう)の斧(おの)」の由来である。

 身の程知らずの無謀な振る舞いを戒めるたとえにもされるが、鎌のような前脚を上げ細身を反らした姿は確かにりりしい。蟷螂は秋の季語だが七十二候では今の時季を「蟷螂生(かまきりしょうず)」といい、卵から赤ちゃんが生まれる頃とされる。

 少年時代、野原で見つけたスポンジ状でピンポン球ほどの塊を家に持ち帰って親に怒られた。中から幼虫がぞろぞろ出てくるのが不気味だと言うのだ。ただ、小さくても前脚がしっかり鎌の形なのがかわいかったのを覚えている。

 肉食で、生きた虫を捕まえることから恐ろしげな印象もあるだろう。本紙「子供のうた」に以前、バッタを捕食する様子を「すこしきもちわるかったけど めちゃくちゃかっこよかった」とつづった小学1年生の作品があった。

 両前脚を合わせる姿から「拝み虫」とも呼ばれる。思えば、稲や野菜には手をつけず害虫を除いてくれる益虫である。おまけに人間には何も危害を加えない。農家には大切な虫に違いない。

 カマキリが成長し繁殖できるのは獲物となる生き物がたくさん生息する場所で、生態系の豊かさを象徴する存在でもある。梅雨の晴れ間、野山に生の営みを探すのも興味深い。