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 先月、放送が終わったNHKの朝ドラ「おちょやん」に印象深いシーンがあった。終戦当日の朝、路地にうずくまる主人公の千代が一人芝居を始める。

 口からもれるのはイプセンの戯曲「人形の家」のせりふだ。「第一に、おまえは妻であり母親だ」と夫。「まず人間です。あなたと同じです」と返す妻ノラ。一人二役を演じながら千代は顔を上げて立ち上がる。

 この回を見て原作を読み直したせいか。最高裁が「夫婦別姓を認めない民法の規定は合憲」とした判決に、ノラの言葉が浮かんだ。「その法律が正しいとは、あたしにはどうしてもうなずくことができません」(矢崎源九郎訳)。

 夫や父親を思ってやったことが詐欺だの犯罪だのと責められ、ノラは納得がいかない。今回の審判を申し立てた事実婚カップルの憤りも、さぞやと思う。別々の姓で出した婚姻届が門前払いされ憲法24条の「婚姻の自由」に反すると訴えていた。

 ただ、裁判官15人のうち「違憲」を示した4人の意見に、いくらか救われたに違いない。選択的制度を導入しないことは「個人の尊厳をないがしろにする」と、断ずるくだりも見える。

 2015年判決を踏襲した最高裁は、国会での議論を促した。夫婦同姓の押しつけにより、信用や実績を築いてきた姓への誇りを傷つけられる人がいる。「まず人間」のせりふの裏の感情に、想像力を働かせてほしい。