( 7/21 付 )

 日本は言葉に魂が宿る「言霊」の国で、言葉には現実を変える力があるとされる。だから、「祝言を発すれば吉事が起こり、不吉な言葉を発すれば凶事が起こると信じられている」。

 昨年、思想家の内田樹(たつる)さんが「危機管理と日本人」と題して本紙に書いていた。危機管理とは本来、最善から最悪の事態まで複数の未来を想定し、対応するシナリオを準備することだ。だが、日本では最初に決めたプランAが「失敗する」という仮定そのものが嫌がられるという。

 菅義偉首相が政府の新型コロナウイルス対策で「決め手はワクチン接種」以外を口にしないのもそのせいかもしれない。東京五輪までにはワクチン効果が表れ、国民も歓迎ムードに転じる、そんなシナリオだったろうか。

 現実は、そううまくは進んでいない。切り札のはずのワクチンは自治体や職場が懸命に接種を進めた結果、供給が追いつかなくなった。いつになったら打てるのか、やきもきしている人も多かろう。

 首都圏では感染者が再び急増し、「第5波」が鮮明だ。東京五輪では「バブル方式」で選手と外部の接触を分けるはずが、水際の検査も行動制限も混乱している。穴だらけのバブルと言われても仕方あるまい。

 「世界から人が集まった結果、ワクチンが効かない五輪株に変異したらどうしよう」。縁起でもないことを口にするんじゃないと怒られるだろうか。