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 平家物語の屋島の合戦で、いざ船で出陣の矢先、源氏の家臣が義経に「退却に備え逆櫓(さかろ)を付けたい」と進言する。後尾に付けるオールだ。だが義経は「縁起が悪い」と聞く耳を持たない。

 先週、国際オリンピック委員会のバッハ会長が都知事と会談し「われわれは同じ船に乗り、一緒に船をこいでいる」と発言したという。それはまさに、逆櫓のない船だった。

 東京五輪の幕がきょう上がる。新型コロナウイルス下で、無観客、メダルはトレー渡し、握手もハグも禁止と異例ずくめである。日本は史上最多の583人が出場する。鹿児島県からは出身、在住者ら12人が10競技に挑む。

 県出身の女子短距離走者として初の代表に選ばれた鶴田玲美選手は、大学時代まで全国優勝の経験がなかった。鹿児島市の実家で暮らしながら練習を積み、この1年で急成長した24歳。大会延期が図らずもチャンスをもたらした。

 柔道日本代表で最年長30歳の浜田尚里選手は、霧島市出身だ。数日前、国分の街に「みんなで応援!」と呼び掛ける横断幕が架かった。ボクシングの岡澤セオン選手や女子マラソンの一山麻緒選手も、大舞台で力を出し切ってほしい。

 前に前にと、こぎ進んだ大会の意義を問いつつ郷土ゆかりの選手の活躍を見守るオリンピックになる。たとえ無観客試合でも、彼らの耳には古里からの大きなエールが聞こえているに違いない。