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 結核のため29歳の若さで没した昭和初期の詩人八木重吉に「虫」という作品がある。<虫が鳴いてる/いま/ないておかなければ/もう駄目だというふうに鳴いてる>。

 限りのある「今」、駆られるように全力で鳴いて生命を全うする虫と、短命の予感を抱いて詩作を続ける自らを重ねたのだろう。一瞬一瞬に情念を注ぎ込むいちずさが鮮烈な印象を残す。

 東京五輪が幕を開けた。集まった選手たちは新型コロナ下で日常が激変しても熱意を冷ますことなく、ただひたすらに鍛錬を積んできたはずだ。ようやくたどり着いた「今」、持てる力を存分に発揮してほしい。

 ただ、これほど開催そのものの是非が問われた大会も珍しい。大会組織委員会や政府は東日本大震災からの「復興五輪」や「コロナに打ち勝った証し」と意義を説いてきた。どちらも内実を伴わないままでの実施には疑問が付きまとう。

 公式エンブレムの盗用疑惑、組織委トップの女性蔑視発言など情けない不祥事も相次いだ。開幕1週間を切って開会式の音楽や演出の担当者が辞任したり解任されたりするに至っては、この国の国際的な信用が心配になる。

 無観客の開会式は派手な演出が抑えられ、質素にさえ見えた。その分、入場行進する各国の選手たちのマスク越しの笑顔が心に残った。5年間待ち続けた時を迎えた選手たちにとって、最高の17日間になればいい。