( 8/11 付 )

 アメンボがすーいすいと滑っていく。<力溜めをりしがついと水馬(アメンボウ) 嶋田一歩>。なるほど6本の脚を一瞬踏ん張り、水を蹴って動き始めるように見える。

 日本名水百選の一つ、湧水町の丸池は栗野岳周辺に降った雨が長い年月をかけてこんこんと湧き、透き通った水をたたえている。アメンボだけではなく、小魚も群れをなして泳ぐ。水面は周りの木々の緑を鏡のように映し出す。

 家族連れのほか、ツーリングの途中で立ち寄った人たちが水路に足を浸したりして涼を取っている。せせらぎが耳に心地よく響く。湧き水をすくって飲める場所もあり、ひんやりした水がのどの渇きを癒やしてくれた。

 近くのJR栗野駅前では女の子たちが水遊びをし、水をくみに来ている人も見掛けた。豊かな水資源は田畑を潤し、日々の生活でも重宝されてきたのだろう。町名が示す通り、豊富な湧き水が身近にある暮らしの何とぜいたくなことか。

 木立の中を霧島市方面へ車を走らせた。途中、茶畑が広がる風景を眺めながら日の陰り始めた森に入った。シャンシャンシャンと鳴いていたクマゼミに代わり、カナカナカナという声が聞こえてきた。

 南日俳壇の選者を26年近く務めた故清崎敏郎さんがこんな句を残している。<かなかなのかなかなと鳴く夕べかな>。ヒグラシの別名カナカナの物悲しい声は、夕暮れ迫る森の空気に溶け込んでいった。