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 第2次安倍内閣の官房長官時代、菅義偉首相は「鉄壁ガースー」と呼ばれることがあった。記者会見で厳しい質問にも表情を変えず、淡々と対応する姿からついた呼び名である。

 様子が変わったのは森友、加計学園問題で追及が激しくなったころだ。「ご指摘は当たらない」「臆測の質問には答えない」と回答を拒む場面が増えた。質問を打ち切って非難を浴びたこともある。

 それでも首相の座に上り詰めたのは、自民党内で駆け引きにたけていたからだろう。派閥に所属せず、党内の基盤ももろかった。弱点をはねのけたしたたかさに、たたき上げの魅力を感じた人もいたのではないか。

 就任約1年で突然辞意を表明した。このところ、新型コロナ対策の不十分さを指摘する声は高まるばかりだった。答弁や会見ではあらかじめ用意した原稿の棒読みが目立ち、発信力不足の批判も付きまとった。

 元米国務長官コリン・パウエル氏の著書「リーダーを目指す人の心得」は菅首相の愛読書だという。その中に「記者は重要性が一番低い聞き手」とある。会見を軽視するような姿勢の根底にはこんな考えがあったのか。

 ただ、パウエル氏は「記者の向こう側でこちらに注目し、耳を傾けている人々がいる」「ばかな質問など存在しない」と続ける。菅首相が真摯(しんし)に受け止めていたら、自らの言葉で語る機会をもっと大切にしたかもしれない。