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 かれこれ40年ほど前のことになる。「君たちの門出に大好きな小説を贈ろう」。中学を卒業する日、担任はそう切り出し「山路(やまみち)を登りながら、こう考えた」で始まる夏目漱石の「草枕」を暗唱した。

 「智(ち)に働けば角が立つ。情に棹(さお)させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい」と続く。コロナ下で2学期を迎え、対策に苦労する教育現場を見ながら担任から贈られた言葉の意味をかみしめた。

 10代以下にも感染が広がり一斉休校を求める声がある。とはいえ、やみくもに子どもの在宅期間を長引かせれば、共働き世帯をはじめ、困る家庭が少なくない。各自治体で対応が異なるのは、簡単には正解を出せない難しさがあるからだろう。

 甑島を除く薩摩川内市の小中学校は、あす新学期がスタートする。今週は給食までの午前授業となる。授業は5分ずつ短縮し、うがいや手洗いの時間に充てるという。

 市内には複式学級があれば、教室の後ろまで机を詰め込む学校もある。児童の少ない学校で時差登校にすると、安全が守れるか心配だという声が上がる。それぞれの学校が事情に合わせて智を働かせ、角が立たないように知恵を絞った。

 「草枕」の暗唱は「住みにくいと悟った時、詩が生れて、画(え)が出来る」までだった。コロナの苦労はしばらく続く。それを乗り越えて、新たな教育の姿が描けるのなら救われる。